お客様の情報は、預けた先でも管理が続く予約・顧客管理サービスで確かめること
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「以前、腰を痛めたことがあるので、強く押さないでください」
リラクゼーションサロンや整体院では、お客様からこのような相談を受けることがあります。
担当スタッフが替わっても気を配れるように、予約台帳の備考欄へメモを残しておく。お客様への配慮として、自然な対応に思えるかもしれません。
ところが、もしその記録が外部へ流出してしまったらどうなるでしょうか。
名前や電話番号だけでなく、施術のために打ち明けた健康上の事情まで、知らない第三者に見られてしまうおそれがあります。
2026年、こうした情報を含む大規模な情報漏えいが発生しました。
7月に第一報が公表された、EPARKリラク&エステの予約・顧客管理サービス「PeakManager(ピークマネージャー)」です。9月24日の調査報告によると、顧客情報を保管するデータベースから、約2,218万レコードの情報が外部へ不正送信されていたことが確認されました。
対象には、氏名、住所、電話番号、メールアドレスに加え、加盟店が施術の申し送りなどのために入力していた「備考欄」の内容も含まれていました。その一部には、健康状態に関する記載など、法律上の「要配慮個人情報」に当たる情報が含まれていたと公表されています。
なお、約2,218万という数字は、お客様の人数ではなくデータの件数です。同じ人の情報が複数含まれている場合があり、正確な実人数への換算は困難と説明されています。
この事例から考えたいのは、被害の大きさだけではありません。
「お客様のために記録した情報が、実際にはどこで、どのように管理されているのか」という点です。
ネット予約や顧客管理を外部のクラウドサービスに任せることは、日々の業務を助けてくれます。一方で、自社のパソコンや店舗が直接攻撃されなくても、お客様の情報に影響が及ぶことがあります。
身近なサービスを使い続けるために、お店で確かめておきたいことを整理します。
予約サービスに入力した情報は、誰が管理しているの?
サービス会社とお店の双方に役割があります。どこまでを任せ、何を自分たちで管理するのかを確かめておきます。
例えば、ネット予約サービスを使っている美容室を思い浮かべてみてください。
お客様がWebから予約を入れると、氏名、電話番号、希望日時、メニューが登録されます。スタッフはタブレットやパソコンから管理画面を開き、前回の施術内容やお客様からの要望を確認・追記します。
このデータは、店舗の端末の中だけに保存されているとは限りません。クラウド型のサービスでは、提供会社が運用するサーバーに保管され、店舗からインターネットを通じて利用します。
このように、ソフトウェアをネット経由のサービスとして利用する形を「SaaS(サース)」と呼びます。自前でサーバーを用意したり、システムを開発したりする負担を抑えられるため、小さなお店にも使いやすい仕組みです。
ただし、管理のすべてを提供会社が引き受けるわけではありません。一般的には、次のように役割を分担します。
具体的な範囲は、契約内容やサービスの機能によって異なります。
「何の情報を集めるか」「誰が使うか」「いつまで残すか」は、お店の業務に合わせて決める必要があります。任せられる作業と、現場で決めることを分けて把握しておきましょう。
便利な「備考欄」が、なぜ問題になるの?
自由に書ける場所には、その用途では不要な情報や、特に慎重な管理が必要な情報まで集まりやすいからです。
PeakManagerの事例には、もう一つ見逃せない点があります。
運営会社は当初、漏えいした情報にクレジットカード情報は含まれていないと説明していました。ところが、その後の調査で、備考欄にカード情報に該当する可能性のある記載が5件見つかったと公表しました。
専用のカード情報入力欄に登録されていたものではなく、加盟店が自由記入欄へ書き込んでいた内容です。いずれも記載された有効期限は切れており、実在する正確なカード情報かどうかまでは確認されていません。
専用の入力欄がなくても、自由記入欄へ書けば、その情報はシステムに残ります。
予約台帳の備考欄は便利です。
- 前回の会話や好みをメモしておく。
- 次の担当者へ施術の注意点を引き継ぐ。
- お客様からの要望を残しておく。
ただし、接客に役立ちそうだからといって、何でも詳しく残してよいわけではありません。
特に注意したいのが、病歴や医師による診療の記録など、法律上の「要配慮個人情報」に当たる情報です。取得には、原則としてあらかじめ本人の同意が必要です。健康に関する情報がすべてこの分類に当たるわけではありませんが、お客様が慎重に扱ってほしいと考える内容には、十分な配慮が必要です。
業務との関係を確かめず、詳しく書いて長期間残すことは避けます。施術に必要のない病歴や通院の詳細、カード情報などは、備考欄へ記録しないようにします。そのうえで、必要性と利用目的を確かめ、引き継ぎに必要な配慮事項を整理し、お客様への説明や必要な同意、閲覧するスタッフ、保管期間を決めておきます。
例えば「強もみを避ける」と簡潔に伝える工夫はできます。ただし、短いメモに言い換えただけで、要配慮個人情報でなくなったり、安全管理が不要になったりするわけではありません。何が読み取れる記録なのか、その内容に応じて扱う必要があります。
「いま使っている備考欄に、何が書かれているか」。システムの防御と合わせて、現場で記録する内容も確かめておきたいところです。
何年も前のお客様の情報まで、残っていることがあるの?
あります。現在使っているサービスだけでなく、以前使っていたサービスの保管ルールも確認が必要です。
2026年には、ネットショップ作成サービス「ショップサーブ」でも情報漏えいが公表されました。
運営元のEストアーによる10月16日の最終報告では、サーバー上のプログラムの弱点を悪用され、約2,335万6,000人分の情報が外部へ不正送信されたと説明されています。
対象となった店舗は7,858店で、現在利用している店舗に加え、過去に利用していた店舗も含まれていました。
対象情報には、購入者の氏名、住所、電話番号、メールアドレス、会員情報などが含まれ、一部にはカード番号の先頭6桁と下4桁、名義、有効期限も含まれています。カード番号全体やセキュリティコードが漏えいしたという発表ではありません。店舗運営者やアフィリエイターの情報も対象です。
ここで考えたいのは、以前使っていたサービスに残る情報です。
ネットショップを閉店したり、別の予約システムへ乗り換えたりしたとき、以前のサービスにあるお客様の情報がどうなるか、確かめたことはあるでしょうか。
- サービスを解約しても、データがその場で完全に消去されるとは限りません。
- 管理画面から削除した後も、バックアップに一定期間残る場合があります。
- 法令や契約、取引への対応のために、一定期間の保管が必要な情報もあります。
過去のデータが残っていることだけで、不適切な管理だったとは判断できません。大切なのは、残す理由と期間が決まっているか、不要になった情報を消せる仕組みがあるかです。
個人情報保護法では、利用する必要がなくなった個人データについて、遅滞なく消去するよう努めることが求められています。必要な記録まで一律に消すのではなく、何のために、いつまで保管するかを確かめます。
現在使っているサービスと合わせて、以前のサービスの解約後の保管期間や消去手順も確認しておきましょう。
予約や顧客情報は、お店の中だけで使われているの?
ダウンロードや受け渡しをすると、クラウドの外にもコピーができます。その保存先まで管理する必要があります。
予約サービスや顧客管理システムを使う現場では、次のような作業があります。
「売上を集計したいから、予約データをCSVでダウンロードする」
「DMを発送したいから、顧客名簿を外部の会社へ渡す」
CSVは、Excelなどの表計算ソフトで開けるデータ形式です。集計や別のシステムへの移行に便利ですが、出力後のファイルにも顧客情報が入っています。
クラウドの管理画面で設定した閲覧権限が、ダウンロードしたファイルへ自動的に引き継がれるとは限りません。ファイルの保存先や共有方法についても、別に管理が必要です。
お店で管理していない端末やUSBメモリへ保存すると、紛失した場合や、端末が不正に使われた場合に、誰がどの情報を持っていたか把握しにくくなります。受け渡しの方法や削除の時期を決めずに送れば、誤送信だけでなく、受け取った側に不要なコピーが残り続けることもあります。
全スタッフが、すべての顧客情報を出力できる状態になっていないかも確認します。日々の予約確認に必要な範囲を超えて、顧客全員の連絡先を持ち出せる状態は避けたいところです。例えば、役割に合わせて次のような分け方が考えられます。
実際に必要な範囲は、お店の仕事に合わせて決めます。
出力する場合も、必要な項目だけに絞り、お店で管理する安全な保存先を使います。外部へ渡すときは、相手と用途を確認し、共有できる人や期間、作業後の削除について決めておきましょう。
外部サービスに預けた情報は、誰が責任を持つの?
外部サービスを使っていても、お店が果たすべき情報管理の役割は残ります。
個人情報保護法では、個人データの取り扱いを外部へ委託する場合、委託元の事業者に対して、委託先への必要かつ適切な監督を求めています。
クラウドサービスの利用が法律上の「委託」に当たるかどうかは、契約内容や提供会社によるデータの取り扱い実態などによって異なります。それでも、外部サービスを使うことで、自社の安全管理の義務がなくなるわけではありません。
例えば、契約している予約サービスで不正アクセスが発生したとします。サービス会社が調査を進めていても、お店側で確認しておきたいことがあります。
- 自店のお客様の情報が対象に含まれるか。
- 氏名、電話番号、備考欄など、どの項目に影響があるか。
- お客様から問い合わせがあったとき、誰がどのように説明するか。
- 法令に基づく報告や通知について、自店とサービス会社が何を行うか。
提供会社にしか調べられないことはあります。一方で、お客様との連絡や、店舗での運用の見直しは、お店側にも必要な対応です。
外部サービスを活用することと、自分たちの役割を把握しておくことを、合わせて考えましょう。
「セキュリティ対策済み」と書いてあれば、安心していいの?
対策の説明に加えて、自社の業務に必要な管理機能と、事故の際の対応を確かめます。
公式ページに「通信を暗号化」と書かれていても、それだけでスタッフの権限や、出力した顧客名簿まで管理できるわけではありません。
サービスを選ぶときや、いまの使い方を見直すときは、次の4点を確認してみてください。
1.役割に合わせて、見られる情報を分けられますか?
全スタッフが同じアカウントを使い、すべての情報を見られる状態は避けます。スタッフごとにアカウントを用意し、役割に応じた閲覧・編集権限を設定できるかを確かめます。
2.顧客名簿のダウンロードを制限・記録できますか?
誰でも顧客一覧を出力でき、誰が出力したか確認できない状態では、持ち出しに気づけません。必要な人だけに出力を許可し、誰がいつ出力したかの記録を確認できるかを確かめます。
3.解約したとき、データはどう処理されますか?
解約後の保管期間や消去の扱いを把握していなければ、以前のサービスに情報が残り続けるかもしれません。必要なデータを取り出す方法と、解約後の保管・消去のルールを確認します。
バックアップに残る期間や、法令などのために保管する情報の範囲も、確認できると安心です。
4.事故のとき、どのような連絡を受けられますか?
緊急時の窓口や、自店への連絡方法が分からないままでは、お客様への説明が遅れます。連絡先が明確で、影響範囲や対応状況をどのように案内してもらえるかを確かめます。
専門的なプログラムの中身をすべて理解する必要はありません。
「必要な情報を、必要な人だけで扱い、問題が起きたら対応できるか」を、自分たちの仕事に照らして確かめておきましょう。
実際に漏えいが起きたら、お店は何をすればいいの?
公式情報を確かめ、提供会社と連絡を取りながら、お客様への対応と必要な報告を進めます。
利用している予約システムや顧客管理サービスで漏えいが公表された場合は、次の4つを確認します。
- 自店のお客様が対象かどうかを確かめる 利用時期や機能によって、影響の範囲が異なることがあります。公式発表と提供会社への問い合わせで、自店の情報が含まれるか、どの項目に影響があるかを確認します。対象が分からない段階でも、問い合わせや確認の記録を残しておきます。
- お客様への説明内容と窓口を整理する 判明した事実と調査中の事項を分け、スタッフ間で共有します。お客様からの問い合わせに憶測で答えず、提供会社の公式窓口も案内できるようにしておきます。
- 法令に基づく報告・通知の要否を早めに確認する 病歴などの要配慮個人情報を含む個人データの漏えい、不正アクセスによる漏えいなど、法律で定められた要件に当たるときは、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が必要です。漏えいが確定していなくても、そのおそれがある段階で対象になることがあります。調査の完了を待たず、自店に必要な対応と期限を確認します。委託関係では法令上の特則もあるため、提供会社と役割を確認し、「提供会社が発表したから自店は対応不要」と決めつけないことが大切です。
- 便乗した詐欺への注意を案内する 漏えいした連絡先を使い、「予約の再手続きが必要です」などと偽るメールやSMSが届くおそれがあります。公式ホームページなどで案内を出し、見覚えのない連絡のリンクを開かず、普段使っている公式窓口で確認するよう伝えます。
提供会社のシステム修正に加えて、店舗での対応も振り返ります。必要以上の情報を記録していなかったか、権限が広すぎなかったか、手元のファイルが管理されていたか。自店で改善できることを整理し、日々の運用に反映させましょう。
今使っている予約・顧客管理サービスで、何を確認しておけばいいの?
まずはサービスを1つ選び、次の5つを確認してみてください。
予約台帳、ネットショップ、顧客名簿のクラウドソフト。いま使っているものを思い浮かべながら、社内で確かめます。
- 何の情報を保存していますか? 氏名や電話番号のほかに、備考欄には何が書かれていますか。業務に必要のない情報まで記録していないでしょうか。
- 誰がその情報を見られますか? スタッフの役割に合った権限になっていますか。退職者や、契約を終えた委託先のアカウントが残っていないでしょうか。
- どこにコピーがありますか? 管理画面だけでなく、ダウンロードしたCSV、メールで送ったファイル、以前のサービスに残るデータも把握していますか。
- いつまで保存する必要がありますか? 業務や法令上の必要性に応じて、保管期間と削除の手順を決めていますか。
- 問題が起きたときの連絡先を知っていますか? サービスが止まったり、漏えいのおそれが分かったりしたとき、誰が提供会社へ連絡し、社内の対応を進めるでしょうか。
最初からすべてを整理しきれなくても、まず1つのサービスについて、分かることと確認が必要なことを書き出してみてください。
PeakManagerの事例では、加盟店が入力した備考欄も漏えいの対象になりました。ショップサーブの事例では、過去に利用していた店舗の情報も含まれていました。
お客様から預かった情報は、システムへ入力した後も、保管や共有、削除まで管理が続きます。
「何を預かり、誰が使い、不要になったらどう消すのか」。
この流れを社内で説明できるようにすることが、お客様の情報を守りながら、便利なサービスを使い続けるための土台になります。


